『トムソーヤの冒険』インジャン・ジョーは悪人か

インジャン・ジョーはとても怖い人のように思われていますが、悪人なのでしょうか。

日本のアニメでは、大柄で目つきも悪く、恐ろしい人の様に描かれています。それに彼が登場する時の音楽も怖いんですよね。お話としてはその方が面白いと思います。でも本当にそうだったのでしょうか。実際に悪いことをしている現場が目撃されているのでしょうか。

物語の中での彼についての描写はいつもトムソーヤやその他の町の住人(全て白人)の目を通したものです。白人の町で「インディアン・ジョー」と呼ばれたネイティブアメリカンが悪役として出てくるのです。彼は白人とネイティブアメリカンのハーフなのですから、出生には何か事情があったかもしれませんし、町の中に偏見もあったことでしょう。

結論から言うと、インジャン・ジョーは悪い人として書かれたし、それが覆った場面はありませんでした。例えば「インジャン・ジョーは実はいい人でした。」というエピソードはありません。最初から最後まで悪人として描かれました。そしてその悪さは「インディアンの血」「インディアンの暴力的な文化」「復讐心の強いインディアンの性質」が原因だと何度も書かれています。このお話が出版されたのが1876年、ちょうど1851年から1886年にかけてアパッチ族をはじめとするネイティブアメリカンの部族と米軍が交戦したインディアン戦争(民族浄化)の真っ最中だったので、白人社会にあるネイティブアメリカンへの偏見は今より相当ひどかったと思います。

ネイティブアメリカンの歴史年表

インジャンジョーはとても気になる登場人物ですし、この物語にスリルをもたらす重要な要素なので、彼が出てきた場面を中心に、何が起きて彼がどのようにふるまったのか町の人々がどのようにふるまったのかを、まとめてみたいと思います。

      

※太字は章の正式なタイトルではなく、私が付けたものです。

墓泥棒とロビンソン医師の殺害(第9章)
インジャン・ジョーが初めて登場するのが、この墓場の場面です。トムとハックは猫の死体を使ったイボ取りの魔術を使おうと、夜中に墓地へ行きます。幽霊が出るんじゃないかとおびえていると、本当にそれらしきものが近づいてきました。それは酒飲みのマフ・ポッターとロビンソン医師、そして混血の殺し屋インジャン・ジョーでした。ロビンソン医師は(本には書かれていませんが)人体の研究のために死体が欲しかったのです。それで最近亡くなったばかりのホス・ウィリアムズの死体を掘り起こすのに、インジャン・ジョーとマフ・ポッターにお金を前払いで渡し、手伝わせているのです。死体を掘り起こして手押し車に乗せたところで、マフ・ポッターが「あと5ドル渡さないと運ばないぞ。」と吹っ掛けます。インジャン・ジョーも同調します。ロビンソン医師が「それは話が違う」と逆らうと、インジャン・ジョーが「5ドルでは足りないくらいだ、5年前の恨みがあるんだからな。」と話します。5年前の晩にロビンソン医師の父親の家に食べ物を恵んでもらいに行った時に医師に邪険にされ、100年かかっても仕返しをしてやると言うと、医師の父親に浮浪罪で牢屋にぶち込まれたというのです。「俺はだてにインジャンの血を引いているわけじゃないぞ。」とインジャン・ジョーは言います。自分で「インディアンを怒らせたら怖いぞ。」と言っているんですね。
その後、ロビンソン医師がインジャン・ジョーに殴り掛かり、インジャン・ジョーが倒れます。医師とマフ・ポッターとつかみ合いになっているところでインジャン・ジョーが起きあがり、マフポッターのナイフを拾います。医師が重い墓標でマフ・ポッターに殴り掛かったのと同時にインジャン・ジョーがナイフを医師の胸に突き刺して殺してしまいます。そして「5年前の仕返しが終わった。ざまあみろ。」とつぶやきます。この殺人と復讐は計画的なものではなかったのですが、結果的に起きてしまいました。インジャン・ジョーは気絶しているマフ・ポッターにナイフを握らせて、この殺人の罪をなすりつけます。

検死での嘘の証言(第11章)
インジャン・ジョーは殺人のあった次の日に医師の死体を運ぶのを手伝ったり、検死で証言をしてマフポッターと医師の取っ組み合いの場面を説明したりします。墓泥棒の部分には触れず自分が何の罪も被らないようにふるまいます。町の人達は彼が恐ろしくて(または若くて未来のある医師が墓泥棒を企てたことについて触れるのを避けて)墓泥棒の件は問題に上がりません。

裁判所からの逃亡(第12章)
裁判の場面です。墓地での殺人を目撃したトム・ソーヤが勇気を出してマフ・ポッターの弁護のために証言します。トムが最後の言葉を言い終わらないうちにインジャン・ジョーは裁判所から飛び出して逃げてしまいます。

財宝と復讐(第26章)
ある日、トムとハックは遊びの一環で盗賊が隠した財宝を探そうと、いくつもの場所を掘り起こします。トムは学校に行っているからか意外と本を読む子供で「本によると」という言葉を使います。一般的に盗賊は大枝のある古い木の下か、幽霊屋敷の床下か、島に財宝を埋めて隠すんだとハックに教えます。以前、ジャクソン島は試したし、今回、いくつか木の下を掘ってみたので、次は幽霊屋敷の床下を試してみようということになります。そして幽霊屋敷に向かいます。一度殺人が起きて廃墟になった屋敷です。ここで2階も見てみようと2階に移動したところで2人の男が入ってきます。耳と口の不自由なスペイン人に見える(以前町で見かけた)男の本当の姿ががインジャン・ジョーだということ、そして上流にある家で危ない仕事(復讐)をしてからテキサスに逃げようとしていることが分かります。2人の男たちは銀貨で650ドルを持っていて、それを隠そうと穴を掘ります。そして別の宝箱が見つかります。それは金貨で、何千ドルもあると思われる量でした。何年か前にこの辺をうろついていた盗賊たちのものだろうとインジャン・ジョーたちは話します。そして財宝を「一番」ではなくて「十字架の下の二番」に隠しておこうと言います。

「二番」の部屋と復讐前(第27-28章)
財宝を隠すための場所「二番」は何を意味するのでしょうか。2人は、ここは住所のない町ではあるものの宿屋の部屋になら番号が付いていると考えます。そして2つある宿屋の、一つは弁護士がかりていること、もう一つは誰が借りているか分からないことを突き止め、誰が借りているか分からない方の見張りを始めます。インジャン・ジョーの復讐を阻止するためでもありました。動きが無いので思い切って夜中にトムが鍵のかかっていないそのドアを開けてみたところ、そこには酔っ払って床で寝ているインジャン・ジョーがいました。トムとハックは一目散で逃げ出します。箱も十字架も見えなかったのは残念でした。

未亡人への復讐(第29章)
宿屋の近くでハックが見張りをしている真夜中、二人の男が小さな箱を持って出てきました。ハックは後を付けます。着いたのはダグラス未亡人の家の前でした。ダグラス未亡人の家に客がいるらしく、一人の男が「諦めようか」言うのですが、インジャン・ジョーは激しく反対します。「あの女の夫にはひどい扱いを受けた。何度もだ。ヤツはいつも治安問題の裁判官で、俺を放浪の罪で刑務所に入れやがった。それだけじゃない!それは百万分の一にもならない!俺を馬のムチで打ったんだ!牢屋の前でムチ打ちにしたんだ、黒人みたいにな!町のみんなが見ている前でな!馬のムチで打ったんだぞ!分かるか!?ヤツはおれを利用して、そして死んだ。だが、俺はあの女に仕返しする。」それを聞いてもう一人の男が「殺すのはやめろ。」と言うと、「亭主だったら殺すところだが、女を殺したりはしない。顔を傷つけるんだ。鼻を切り裂いて耳に切れ目を入れるんだ、メスブタみたいにな!」それを聞いたハックは近くのウェールズ人の家に助けを求めに行きます。

復讐の失敗(第30章)
ウェールズ人たちは二人の男を捕まえることはできませんでしたが、ダグラス未亡人を助けることはできました。ハックが次の日に詳しく説明に行って、「あれはスペイン人じゃなくてインジャン・ジョーだった。」と言います。するとウェールズ人は「良くわかった。耳や鼻を切る計画をしていたという話を聞いた時、君が大げさに話しているんじゃないかと思ったんだよ。白人はそういう復讐はしないからね。でもそれがインディアンなら、話は別だ。」と答えます。インディアンのする復讐は残忍だと思われていたのですね。その後、ハックは熱を出し、ダグラス未亡人の家で寝かされます。

洞窟でトムがインジャンジョーと鉢合わせする(第31章)
トムとベッキーが洞窟内で迷子になります。数日間で二人は疲れ果て、ろうそくの火も消えてしまいました。真っ暗な中、トムが最後の力を振り絞って出口を探していると、突然、ろうそくを持った人が現れます。トムは喜んで大声で叫び、直後にそれがインジャン・ジョーだと分かります。トムは凍り付き、意外にもインジャン・ジョーは逃げ出して視界から消えました。

トムとベッキーの帰還(第32章)
トムは洞窟内で小さな光を見つけ、そこから出ることができました。家に帰ってしばらくは衰弱して寝込んでいました。およそ2週かがたち、トムはハックに会いに行くことにします。途中、ベッキーの家に立ち寄ってベッキーの父親である判事と話し、そこであの洞窟に鉄の扉が付けられて鍵がかけられたことを聞かされます。トムはびっくりして「あの洞窟にインジャン・ジョーがいるんです!」と話します。

インジャンジョーの死(第33章)
すぐにボート12隻分の男たちが洞窟に到着します。鉄の扉が開けられ、インジャン・ジョーが死んでいるのが見つかりました。トムは同情心と同時に安心感を抱きます。そこにはインジャン・ジョーがナイフで地面を掘ったり、ろうそくやコウモリを食べたり、鍾乳洞から滴るほんのわずかな水滴を集めようとした形跡がありました。
インジャン・ジョーは洞窟の入り口近くに埋葬され、葬儀が営まれます。「それと同時にインジャン・ジョーの恩赦を求める州知事への請願も終わりました。多くの人が請願に署名し、涙を誘う集会が開かれ、感傷的な女性たちが喪に服し知事を囲んで泣き声を上げました。5人殺したと言われたインジャンジョーでしたが、たとえ彼がサタンであっても、年がら年中水漏れしている目からの一滴を請願書に垂らしてあげる軟弱な人々はたくさんいました。」(「」内はマーク・トウェインによる記述)

その後、トムはインジャン・ジョーの財宝が洞窟内にあると確信し、ハックと一緒に探しに行きます。そして、すすで書かれた十字架の下を掘って宝の箱を見つけます。
(お話は第35章まで続く)

【まとめ】
インジャン・ジョーは最初から最後まで、完全に悪人として書かれていました。白人たちのコミュニティからは完全に外れた存在だったはずですし、物乞いをしたり放浪したりする嫌な存在だったのでしょう。
第8章と16章に、トム・ソーヤがインディアンごっこを楽しんでいる場面があります。どちらも頭に羽根飾りを付け体に色を塗りたくった恐ろしい姿で、血の凍るような雄たけびを上げたり、イギリスの入植地を襲撃したり、3つの部族に分かれて殺し合い頭の皮をはぎ取り合ったりしています。男の子たちにとっては恐ろしいけどカッコいい、そんな存在だったのかもしれません。

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